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「ま、文句を言っても仕方ないでしょ。どうせ“あの人”は僕らの意見なんか聞き入れないよ」
「……それもそうだな」
心の中で密かに、でもやっぱ納得いかねえ、つーか捕獲に一番向いてるのはあいつの能力だろ……などと思っていたレオルドだったが、それがブツブツと独り言となっていたのはコルトだけの秘密である。
苦笑するコルトだが、レオルドの性格を知っている彼は、
(いざやるとなったらやる気も能力も全開のくせに……)
口は悪いがやることはきちっとやる。レオルドという少年はそういうタイプなのである。
「まぁ、そういうワケだから、さっさと準備を済ませてね。あ、そうそう今回も例のごとくクロスの邪魔が入るみたいだけど――」
コルトは声を低くし、
「“いつも通り”全力で殺しちゃっていいってさ。聖現契約者に限っては、契約切れで聖獣に逃げられると面倒だから、“死なない程度に殺せ”って命令だけど」
「……わかった」
暗い表情で答えるレオルド。その本心は計り知れない。
「……そう言えば、オレってば、どこに向かうか聞いてなかった」
「ん、ああ、命令されてすぐに怒って飛び出していったもんねレオルドは。行き先を聞いてなかったのか」
仕方ないなぁ、と呟くコルト。申し訳無さそうに肩を竦めるレオルド。
「今回の僕らの目的地は――フィンランドだ」
†
「おー……暑くも寒くもない」
スウェーデン、ストックホルム。
北欧の地に初めて降り立った雫が最初に放った言葉がそれであった。
例によって、人里離れた場所に秘密裏に作られた空港。着陸し、ビフレストから建物内に移る際に一瞬触れた外気は心地の良いものであった。。
ストックホルムの6月の最高気温は20℃前後であり、日本よりも涼しい。北欧だから寒いかも、いやむしろ裏をかいて暑いかも……などとよくわからない警戒をしていた雫だったが、ほんの少し拍子抜けした気分になる。
「……つっ」
大きく息を吸い込まんと両腕を広げた雫だったが、脇腹に走る鋭い痛みに思わず顔をしかめる。
「大丈夫? 雫っち」
心配そうに雫の顔を覗き込んだのは佳蓮。
かの戦闘において、ほとんど無傷で生還した数少ない契約者だ。
見た目にそぐわずかなり腕が立つらしい。
半ば疑う格好で雫は佳蓮に視線を向けるが、佳蓮はとぼけたように、可愛らしく頭を傾けるだけであった。
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