第一章 ユグドラシル

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「ん、ああ、大丈夫だよ」 「ほんと? ……無理はしちゃダメだからね!」  仲間に心配をかけまい、と発した言葉だが、どうやら佳蓮にはやせ我慢であることがお見通しらしい。本当は歩くのでさえやっとな状況。オーバーシンクロは雫の身体を細胞単位でボロボロにしていたのだ。  しかしそれでも追及してこないのは、佳蓮が雫の気持ちを汲み取ったからなのであろう。 「……連れ出したあとで言うのもなんだけど、大丈夫なの?」 「大丈夫だってば。戦闘とかは難しいけど、日常生活は問題なく過ごせるし……」 「そう……ま、あんたは最悪本部でお休みしてればいいしね。んー、それにしても本部か……いつ以来かしら」  薄手のロングコートを着込んだ瑞穂が、本部のあるであろう方角に顔を向けながら呟く。 「私たちはつい先日までいたけどな」  そう言って、んー、空気がうまい、と深呼吸をするのは、ゆるふわ茶髪にモデルのような甘いマスクの男、ミーシャ・コヴァルスキ。  雫と瑞穂の窮地を救った、世界中のクロスに所属する人々にいろいろな面で名を知られている実力者である。 「……」  そして、そんなミーシャの隣で仏頂面で腕を組み、会話に加わることなく黙々と歩く少年。  彼はロア・ブラッドリー。  聖獣の一つ、“麒麟”と契約した少年だ。  金髪碧眼に整った目鼻立ち。背丈はちょうど雫と同じくらいだろう。日本人の好みそうな外国のオトコノコ、という感じだが、厭世しているかのような仏頂面がそれを台無しにしていた。  そもそも彼は会話に興味がないらしく、少しも話を聞く素振りを見せない。  初対面の雫以外の面々はロアの性格を承知しているため今さらこういった態度をどうとも思わないが、初めて行動を共にする雫からしてみればあまりいい印象を持つはずもなく、 (なんだコイツ……暗っ!)  などと心の中で思ったりもしている。  元来、ロアは他人にあまり興味を示さない。それについてはなにか理由があるのかどうか定かではないが、初対面、旧知と関係なく、必要最低限のコンタクトですべて済ませる。絶対に二人きりにはなりたくないタイプである。
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