第一章 ユグドラシル

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「そろそろいい加減にしなさいよ、あんたら」  青筋を浮かべた瑞穂は睨み合う雫とロアの間に立ち、両者に向かって拳を振り下ろす。  ごつん、と鈍い音。  瑞穂の鉄拳に、雫は頭を抑えて涙を浮かべる。  ちなみにロアはひょいと上体を反らして拳を回避しており、冷めた瞳でうずくまる雫を見据える。 「な、なにすんだ瑞穂……脳漿ぶちまけちまうかと思ったぞ」 「あんたが悪いんでしょ。あと私はそこまで力強くないわよ。ていうかロア、あんたも避けんじゃないわよ」 「……ふん」  瑞穂を一瞥すると、一つ鼻を鳴らして、歩いていくロア。  そんな後ろ姿を睨みつつ、雫はブツブツと呟く。 「ちっ……んだよ、あのヤロー。舐めやがって。もう怒った。スマブラでフルボッコにしてやる」 「はいはい。いいから行くわよ」  瑞穂に引っ張られ、なおも恨みの言葉を並べる雫も渋々立ち上がり、空港の外へ向かう。 †  スウェーデン、ストックホルム。  風に揺れる木々の緑、美しい湖畔の青。静かで落ち着いた綺麗な街並みを、送迎用リムジンの車内から雫は眺めていた。  『水の都』『北欧のヴェネツィア』などと称されるように、その美しい街並みは印象的である。 「ほえー……思ってた以上に綺麗な街なんだな、ストックホルムって。散歩がしたくなる」 「水の上の都市、とも言われるくらいだからね。ちなみにこれから私たちが行くガムラ・スタン(旧市街)はここらへんとは少し違った趣のある場所よ。個人的には大好きな街ね」  少々興奮気味に言う瑞穂。    『丸太の小島』――ストックホルムの意味はそれだ。  その由来は、スウェーデン東部の小島に、13世紀の王朝が戦闘に備えて丸太の柵を張り巡らせ、そしてそれが近郊の島にも広まっていったことによるが、その最初の小島・スタツホルメン島がいわゆるガムラ・スタン(旧市街)と呼ばれている。  中世の情景を残したこの場所は有名な観光地にもなっており、人気も高い。 「見えてきたわよ」 「おお、あれが……」  まず目に飛び込んできたのは、古風な作りの建物。石畳の道路。  まるで映画のセットのような、またローマの一風景のようなそこは、確かに見た者全ての関心と感心を引き出す。 「車はこれ以上は進めねーから、ここから先は歩きになるぜ」  一同はリムジンを降り、石畳に足を踏み入れる。
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