第一章 ユグドラシル

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「やっばい。テンションあがってきた」  早くも興奮気味の瑞穂。 (こういうのも好きだったんだな、瑞穂って。ちょっと意外かも) “人は見かけによらないと言いますからね”  ノホホンと聞こえぬ会話を交わす二人。  しかしその二人も、瑞穂の興奮とは違った、気分の昂揚のようなものを感じていた。 (なんだろう、この気持ち……吸い寄せられるというか、なんだか行かなきゃいけないって気分にさせられる) “……何でしょうか。心なしか、『不死鳥』としての私も同じような気持ちに陥っているかのような、そんな感じがします”  二人を引き寄せるものは、すぐ先にある。 † 「ね、ねえ。せっかくだし、少し、ほんの少しでいいからガムラ・スタンの観光をしない?」  吐く息荒く、瑞穂は懇願する。  普段は真面目で冷静で、筋の通らないことが嫌いという性格の瑞穂。そんないつもとはまったく違う姿を見せる瑞穂に引き気味かつ動揺を覚える雫たち(佳蓮やミーシャたちは初めてではないが)だが、そんな彼女の切なる願いを無慈悲に切り捨てたのは、観光にまったく興味がないであろうロアだった。 「夏瀬、お前はここに遊びに来たのか? 観光などというくだらんことに現(うつつ)を抜かしている暇があったら、少しはクロスのために働くべきだと僕は助言してやろう」 「……あ゛?」  そのとき、瑞穂が発した短い声を雫はしばらくは忘れることが出来なかったという。  それほどまでに怒気――むしろ覇気のこもった声色の瑞穂は、まるで鬼が宿ったかのような表情をロアに向ける。 「今なんつったクソガキコラ?あ? ぶっ殺すぞガキ」 「瑞穂ちゃん、口調! 口調!」  我を忘れた瑞穂は目を最大まで見開き、低いうなり声のような声色でロアに脅しをかける。  しかし、やはりそこはさすがロアと言うべきか、 「くだらん。僕は先に行くぞ」  と見事にバッサリ切り捨て、先へと歩いていってしまった。  怒りのやり場を失った瑞穂はなおも冷めやらぬ様子で拳をギュッと握り締め、 「あいつ、次会ったら絶対ぶん殴る」 「はは……とりあえず、私らもいかねーか?」  苦笑を浮かべながらロアの消えていった方向を指差すミーシャ。  無論、雫と佳蓮の答えは決まっていた。 「そうしよう」
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