プロローグ

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「もう逃げ場はないぞ。…包囲しろ!弓用意!!」 天使の一人が片手を上げた。 何百という鋭い穂先が向けられる。 「戦争中っていうのに、僕一人の為にこれだけの数の追っ手を寄越すんだ、神は思ってた以上に馬鹿み たいだね。…君達ももう死ぬ。天使も、悪魔も、皆。」 「神を愚弄する事は許さん!放てー!!」 「ー‥リキ!!」 天使が、上げた手を振り下ろすのとルディが声を上げたのは同時だった。凄まじい風の音が辺りに響き、首に巻かれたチョーカーが強い光りを放ち赤紫色の霧が彼を包み込む。 ルディ目掛けて放たれた幾多の矢の大半は、強い光りに含まれていた大きな魔力により軌道を変えられ地に落ち、魔力に対抗しえた残りの矢もルディに当たる事はなかった。何故なら現れた人影が、まるで彼を守るかのようにルディの前に立ちはだかり、全ての矢をその身に受けていたからである。 矢の雨が止むと人影は小さく息を吐き出した。 「…結局僕は、最後まで君を頼るしかないんだ…」 眉を寄せ、唇を噛み締めながら音にした言葉にリキと呼ばれた人影は表情を現す事なく真っ直ぐと敵を見据え、身体に刺さった幾多の矢を引き抜きながら言った。 「貴方が死ねば俺も死にます。…ご命令を」 振り向く事なく、静かに放たれた 言葉にルディは苦笑した。 「君は生きなよ」 -‥僕にはもう、戦う力は残ってないんだ‥- 思った言葉は口にはしなかった。彼なら分かっている筈だ。何の為に逃げ出したのかを。そしてルディも分かっている。彼が、何を言いたいのかを。 「馬鹿だな、本当に…」 「…何があっても守ります。必ず…」 ―‥だから‥― 「充分だ。ありがとう」 二人を包んでいた強い光りと 赤紫色の霧が消えた。
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