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「ははっ。やあや、久しぶりだね。黒猫ちゃん」
そういって、薬師神一時は十三階堂黒猫を迎え入れた。
否、迎え入れたというのはおかしいか。
そういって、薬師神一時は十三階堂黒猫の侵入を受け入れた。
「相変わらず汚え部屋だ」
足元の本を足で退かしながら、黒猫さんが笑って言った。
薬師神一時の部屋はいつでも汚い。
足の踏み場もないほど積み上げられぶち撒けられた本本本本。
紐綴じのものもあるのだが、それらの紐が解けたものが多々あり、ばらばらになっている。
それなのに、「好きな頁一発でわかるじゃない」 とか、「面倒臭いじゃん」 だとか言うのだ。
総じてふざけた男である。
ぼさぼさと伸ばしっぱなしの傷みきった金髪に、卑怯そうな垂れ目と、無精髭が相まって、一応、白の装束を見に纏っているに関わらず、一見して詐欺師にしか見えない。
つーか詐欺師だと思う。
思い出したくもない忌まわしい記憶だ。
因みに、薬師神は28歳。黒猫さんが24歳で、私が17歳だ。
「やあやあやあやあ。いやあ、久しぶりだねえ本当に」
にやにやと薄ら笑いを浮かべながら薬師神が言う。
「なんだい。また気持ちの悪い事件でもあったのかな」
問い掛ける薬師神の言葉に、黒猫さんが答えた。
「ああ、そうなんだよ薬師神。いつだってそうだ」
「はは。いやあ、そりゃあ黒猫ちゃんが持ってくる"現象"だから仕方がないね」
けたけたと薬師神。
先ほど言い忘れた、十三階堂黒猫の特性……ともいうべき"現象"。
彼女は、死と流血と不幸と絶望を連れて来る。
彼女と私と薬師神とで関わった事件で、何度か黒猫さんの旧知と話したことがあったが、聞いただけでも、所謂、異名が8つ程ある。
曰く、"死と流血の使徒"。
曰く、"死神統括"。
曰く、"三途街道"。
曰く、"死の十三階段目"。
やらやら。
他はあまり覚えていない。
先ほどの黒猫さんの旧知が言うには。『敵に回しゃあ奴の向こうに黄泉が見え。後ろを振り向きゃ地獄絵図。味方に回せば死神で、あっけらかんと人が死ぬ』……だそうだ。
そうなのだ。十三階堂黒猫。不幸のオンパレードの様な名に反することなく、彼女の周りでは、いつもいつでも事故が起きる。定められたかのように事件が起きる。さながら運命のように死人が出るのだ。
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