追跡

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 準備を終えたフォルは黙って意識を静め、それを拡散させる。  準備に時間をかけた甲斐あって、彼女はすぐに追跡者の位置を特定していた。  距離は二百、接近中である。  扱える僅かばかりの魔力を、足元に向けて供給する。  喉が焼けつき、全身に激痛が走るが、彼女は気にしない。  起動したそれ──魔力を帯びた魔方陣の外周部に篝火が点り、吹き上がった炎が咆哮を上げた。  竜を象った炎が生物のようにうねり、木々を躱し、フォルの狙い通りの地点に着弾。  森は、一瞬にして灼熱地獄と化す。  魔力が制限されている彼女は、陣を媒介にして僅かな力を増幅、更には固定砲台とレーダーを兼ねた簡易要塞を形成していたのだ。  これならば、呪具に力を制限されていても、並の魔女となら対等に戦う事が出来るだろう。  追っ手の接近を察知していたフォルは、ここで追っ手を始末しておけば、数日は新手が現れる事は無いと考えたのである。  かつて東国で魔女として活動していたからこそ、彼女はその運営体制は熟知していた。  抜かりは無いはずだった。 「わあっ!?」  しかし、悲鳴を上げて火の海から飛び出して来たのは、黒猫である。  普通、猫は喋らない。  普通、猫は罪人を追わない。 「────!!」  その一瞬の混乱が、命取り。  黒猫が囮だと気付いた時には、既に決着はついていた。  耳元から聞こえる、囁くような子守唄。  いつから追っ手が背後に居たのか悟る間も無く、彼女の意識は暗闇の中に引きずり込まれていく。  意識が途切れそうになる直前、彼女は最後の力を振り絞って後ろに視線を向けた。  そこに居た女には、見覚えがある。  いや、東国に属する魔女で、恐らくその女を知らぬ者など居ないだろう。 「なるほどね……歌術の使い手が来ているとは思った……けど、まさかS級魔女を、寄越してくるなんて」  膝をついたフォルは、既に意識を失っていた。  彼女を無造作に担ぎ上げた女は、先ほどとは異なる歌を口ずさむ。  同時に、フォルが組み上げた魔方陣は水飛沫を上げて消滅し、森に放たれた炎を静かに鎮火していった。  黒猫が女にすりより、にゃあと鳴いた──
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