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今日はジメジメとした空気が充満している。
九野幹泰(くのもとやす)から出る汗がこの部屋の湿度をあげているのかもしれない。
窓は網戸で、風通しをよくするのに開けてある。
風鈴の音が涼しさ演出するはずの音も、熱気を帯びた風に邪魔される。
そんな部屋の中で黙々と鉛筆をノートに走らせる九野はこの状況にも動じない。
40年生きて培った物だ。
右腕に滲み出る汗がノートを湿らす。
ノートに書き込む鉛筆の濃さも薄くなる。
それでも九野は気にせず書き続けている。
子供の声が外から聞こえる。
近くに小学校があるこの辺りは、小学生の通学路だ。
その声に九野は、顔を上げる。
(4時か…)
九野は鉛筆を置き、ノートの上の消しカスを払う。
九野はめいいっぱい大きな体で伸びをする。
九野は立ち、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
その拍子に冷蔵庫を覗くと、中には調味料と冷凍食品が1つに卵1個だった。
冷蔵庫を閉め、グラスに牛乳を入れ、一気に飲み干す。
「あ~」
冷たい牛乳が暑さにさらされた体に生気を注がれるようだ。
(買いにいかないとなー)
鍵と財布を持ち、出かけようと玄関に出る。
しかし、玄関の通りにある鏡に違和感があった。
鏡を覗き込むと頭に巻いた鉢巻きが間抜けさを物語っていた。
鉢巻きを取り、投げ捨て、部屋を出た。
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