第1部

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いつか、この日が訪れることは、覚悟していた。 「ママ・・・」 由紀菜(ユキナ)の母親が倒れてから、もう4年の歳月が流れていた。 癌に身体を蝕まれ、長いこと苦しんできたが、ついにその苦しみから解き放たれた。 「長い間お疲れ様・・・」 覚悟はしていたが、やはりたった1人の家族を失った悲しみは計り知れないほど大きい。 「お前もよくばんばったよ」 まだ立ち上がれないでいるユキナの頭を優しく撫でるのは、幼なじみの陣。 陣にとっても、小さいころから可愛がってくれていた人との別れだった。 「ありがとね」 ユキナには父はいない。 生きているのか、死んでしまったのかも知らない。 母親に聞いても、いつもはぐらかされてしまっていた。 祖父母も親戚もいない母親は、1人でユキナを産み育て上げた。 大人の事情をなんとなく察し、ユキナも深くは追求しなかった。 これからは、たった1人の生活が始まる。   
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