再びの夏

3/25
前へ
/287ページ
次へ
「結局、もう一度私を『おじさん』と呼ぶ事はなかったな、圭吾」 少しおどけた口調の朝倉翁が眉を片方上げた。俺はつい、苦笑い。 「流石にもう、そんな勇気は持ち合わせていません」 勇気というのはこの場合、愚挙、という意味だ。 当時はいろんな人から――それこそうんざりするほど――俺は自分のこの発言について説教をくらった。 ある人は、こう言った。 『お前、将来を潰されたいのか』と。 飲ませてもらった美味い酒に酔った俺の馴れ馴れしい振る舞いは、翁の周囲の人間にしてみればとんでもないことだったらしいが、彼は寛大な人だ。 気のせいかそれを境に、俺をますます可愛がってくれるようになった。
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!

433人が本棚に入れています
本棚に追加