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だが俺は恩に報いるどころか、彼の大切なものを握り潰した。
嫌に蒸し暑かった、八月十九日。
この日、可奈子は自ら命を断った。
その時の彼も、変わらず寛大だった。
可奈子の死を招いた俺を責めるどころか、苦しめてしまった、赦せと言うのだ。
何度も違うと訴えた。
俺は決して赦す立場などではなく、可奈子や貴方、可奈子の母親に赦しを乞う側なのだと。
なのに。
彼は今だって、自分の娘ではなく、他人との婚約報告をした俺を優しい眼で見つめている。
朝倉翁の優しさの前で、俺は彼に謝罪の言葉を述べ、涙を流すことしかできない。
それさえも彼は要らないという。
俺はどうしたら救われるのだろう。
かけがえのない命を奪った罪を、どう償えばいい。
誰もそれに答えてくれない時間が、あの日から数えて七年にもなる。
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