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耳鳴りがしそうな量で蝉の声が降ってくる。
広大な庭の木洩れ日の下を歩く俺は、青々とした葉の隙間から覗く空を見上げた。
今日もよく晴れた日だ。
酷暑とも言えるが、朝倉翁はどうお過ごしだろう。
お体に障りなければいいが。
離れで俺を待っている人物の体調を少し気にしながら、額にうっすらと浮く汗をハンカチで拭う――突然、そんな俺の脳裏をそよ風のように過ぎる思い出。
「……」
しばし立ち止まって、過去に想いを馳せる。
ここに来たのは、今日が可奈子の命日だからだ。
彼女は関係ない。
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