なんでもできる奴には敵わない

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 母はその笑みから何かを察したのか俺に向かって言った。 「私に何があっても、お前は手を出してはいけませんよ」  母がそう言い終わる頃に、母は殴られた。鈍い音と共に、母が地面に倒れる。  男達は母を押さえ付けると、母の爪を全て剥いだ。母の悲鳴が鼓膜から脳の奥の奥まで届いて染み渡る。  どこからともなく取り出したナイフで男達が何をするのかは、母の言葉とを足し合わせれば容易に想像がついた。  次の瞬間、母の指は短くなった。そして“それ”は徐々に母の内側へと迫る。  その光景を目の当たりにして、俺の中に沸々と沸き上がる怒り、それを遥かに凌駕する恐怖、何もできない無力感が心をえぐった。  しかし何より、だがしかし何より――  ――本当に俺の心をえぐったのは、『自分がこんな目に合わなくて良かった』という安堵の気持ちだった。  全てが終わったところで男の内の一人が言った。 「母ちゃんここまでされて動けなきゃおめぇ男失格だな。まっでも生きてて良かったね生きてりゃ良いことあるさ。母親死んでてもさ」  高笑いと共に男達はどこかへと消えていった。  この時俺は復讐と自殺を決意した。
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