毒物

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それから少しして、私は気がつきました。あの人を私はどこかで見たことがあった気がしたのです。 見間違いでしょうか。いいえ、たしかに見たと思ったのです。 街中なので人が多く、彼女はとっくの昔に見えなくなっていました。 私は、目をゴシゴシと擦りました。そして私はニヤリと笑いました。彼女のことを思い出したのです。 そして、同時に泣きたくもなりました。 とても泣きたくなったのです。私は一言叫びたくなりました。しかし、私が叫んでも、何を言っても、街中の騒音にその声は掻き消されてしうのでしょう。 だから私は言いませんでした。ただ、心の中では叫びたい衝動に狩られました。ただ、それを実行できるほどの精神は持ち合わせていませんでした。 その変わり、自分を守るだけの術は知っていました。そして、そのために私は毒に犯され、今も尚、解毒しきれずにいることもまた、自分でわかっていたのです。そして、死ぬまでずっと、それに苦しむこともまた、わかっていたのです。
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