プロローグ

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雨だった。 暗い道。 うねうねとカーブを繰り返す車。 それに僕は乗っていた。 なぜ乗っていたか。 両親は何も言わなかったが、僕にはある予感がした。 死ぬ。 僕たち家族はもう、死んでしまう。 最期だ。 この車に乗るのも、家族みんなが揃うのも。 今から向かっているところも大体予想がつく。 崖だ。 そこに行き、車ごと海に突っ込むのだろう。 嫌でも死ねるから。 運転している父親はむっつり黙ってハンドルを握っている。 母親は助手席でなにかを覚悟しているかのように膝に握りこぶしを2つ、並べて俯いている。 後部座席、つまり僕の隣ではしゃいでいる、妹。 ねぇねえ、どこに行くの?、なんて無邪気な事を僕に聞いてくる。 本当の事を言えるはずがない。 僕たちはこれから、死にに行くんだよ。 …なんて。残酷すぎる。 さようなら。 心の中で思ってみると、今まで我慢してきた色んな想いが胸を突き上げてきて涙が出そうになった。 …いけない。 僕が泣いたら、妹は…。 最期ぐらい兄らしいところを見せてやりたかった。 どうせ、妹も死ぬのだ。 僕たち家族は同じ運命。 なにも言わなくったって運命は変わらない。 もちろん、なにか言ったとしても、だ。 ―神は残酷だ。
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