1・ハロウィン

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今日は午前授業だった。理由は忘れたが…多分、先生方の会議か何かだ。 もともと部活には入ってないし、特に寄り道したい所もなかったので僕はかなり早い時間に家へと帰る事になった。 ちなみに一緒に帰る友達は居ない。一緒に帰る友達だけが居ないのではなく、そもそも僕は友達が居ない。居ないというよりは、いらない。作らない。 自転車を30分くらい走らせてやっと家へと辿り着けば壁の近くに自転車を停めて鞄から家の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。…あれ、鍵が開いている。 父親が鍵でも掛け忘れたのだろうかと思いつつも若干ドキドキしながら家の中へと入って行けば、いつもなら仕事中の父親が何故か当たり前のようにキッチンに居た事に僕は面食らってしまった。 もう40歳近くになるというのに未だに赤いチェックのエプロンを着け続けている父親は、ドアの音に気付いて頭を上げると僕の顔を見るなり驚いたような表情を浮かべた。 午前授業だって事言ってなかったっけ。 「きょ、今日は早かったんだな…海斗」 「はい。午前授業でしたから。…今日は休みですか?」 「何言ってるんだ。今日が何の日か分からないのか?」 「今日…」 僕は小さく呟きながら、キッチンを通り過ぎ洗面所の方へと向かう。手を洗いながら目の前の鏡に映る自分の顔を見つめていれば、今日学校でクラスメイトが盛り上がっていた話題をふと思い出した。 「もしかしてハロウィンの事ですか?10月31日…」 今日の日付を口に出した途端、ハッと気付いて思わず父親のほうを見てしまった。そこには少し寂しそうに、でも優しく微笑んでいる父親の表情があった。 そうだ。今日は僕の誕生日だった。 「…僕のために?」 「すまないな、最近仕事が忙しくてなかなか一緒に居られなかった。お前の誕生日プレゼントは今日一緒に買いに行こうと思う。それでいいか?」 僕が何も言わずに頷けば、父親は心底安心したように息を吐いた。 「何か欲しい物、あるのか?」 ドキッ、とした。ドキッとしたが表情には出さずとっさに目線を外し、「…本がいいです」と呟く。 僕の動揺がばれてはいないだろうか。そんな僕の不安を余所に父親は何も気付かなかった様子で、どこか嬉しそうに頷いた。 父親も相当の読書家なのだ。僕の本好きは確実に父親の影響だと思う。
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