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この地に来てからというもの、何故かは知らないがあの頃の夢を何度も見るようになった。
普段の睡眠は勿論のこと、学校での居眠りでさえ見るようになってしまった。
名前すらも思い出せないあの女の子が、何時までも頭の片隅でうとうとと眠っている。
そんな、昼下り。
漸く慣れ始めた学校生活に早くも適応力を発揮する俺は、今現在居眠りからの覚醒を果たした。
つまらない国語の授業を右から左へと受け流しながら、教室を見渡してみる。
他のクラスメートも同じように、何人かはあの子守唄に夢の世界へと誘われいた。
窓からは燦々と煌めく暖かな春の陽射しが眠りを助長しており、雲一つない晴天が清々しい気持ちにさせる。
これで爽やかな微風でも付け加えたら最高のシチュエーションなのだが……残念ながら、今年の春はまだまだ冬の名残を引きずっている模様。
ひと度窓を開ければ冷涼な風が舞い込み、体温を奪われてしまう。
人間という生き物は実に都合の良い生き物で、たった数℃の温度差でさえ適応しようとすらしない。
寒ければ厚着で尚且つ暖房。
暑ければ薄着で尚且つ冷房。
挙げ句の果てには冷房の効かせ過ぎで夏風邪を引き起こす馬鹿でさえいる始末だ。
そんな世の中で、ある意味文明社会に喧嘩を売るような姿勢を見せる女子学生が、俺の目の前にいる。
紺色に染まったカーディガンが、太陽の熱を反射していた。
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