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「そんな簡単でいいのか?」
拍子抜けた表情を浮かべる響也。
「もっと、こう……長ったらしい詠唱とか必要なものかと」
「漫画の読み過ぎだぞ、そんな調子で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない――って、お前に言われたくねぇよ!!」
呆れたように息を吐く黒猫に犬歯を剥ける。しかしミサキは、先ほどまでの自分の発言を棚上げし、彼を見下す。
「そもそもあんなもの、単に魔術をカッコ良く見せるためのものだろう? 省エネの昨今、短縮できるものは短縮しておくものだぞJK(常識的に考えて)」
「短縮し過ぎもどうかと思うけどな!! JKなんて何パターンあると思ってんだ!!」
そういう彼自身、JKのパターンは二つしか知っていないが。
「あっ、そうだ」
何かを思いだしたかのように、響也は言う。
「どうした?」
「最後に、一個だけいいか?」
「いいけど」
「なんで俺なんだ?」
「…………」
振り回していたしっぽさえも止め、途端に沈黙するミサキ。
しかし響也は、それをさして問題視していなかったため「まあ、別にいいけど」とすぐに話題を切らせた。
彼女の安堵の息が聞こえたが、気付かないふりをする。
すると、インターホンが鳴った。
「客のようだぞ?」
「みたいだな」
黒猫をテーブルの上に置いたまま、玄関へ向かう。
扉を開くと、そこには桃色のエプロンを身につけた女性が立っていた。後ろに一本でまとめて下ろしている黒髪が印象的だ。
このマンションの管理人にして、響也の母親の友達――音無巴である。
「巴さん? どうしたんですか?」
巴の表情は明るいものではなく、なにか悩みでもあるように沈んでいる。そんな様子は一目瞭然であった。
「あのね……、響也くん、色彩高校に通うんだよね?」
「ええ、新入生です」
「えっと……ね? お願いがあるんだけど……」
「えっ?」
きょとんとする響也の後ろで、黒猫は紅い目をキラリと光らせていた。
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