第一章 ―能力―

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頭上に黒猫――ミサキを乗せた響也は帰路へ着いていた。 「まあ、いろいろ細かい説明は省かせてもらうよ?」 「とりあえず、魂の行き場とか、すっげぇ重要そうなことは、どこぞの猫もどきみたいに言わないなんてことないようにな」 「分かってる分かってる」 今は辺りに人影が無いからいいものの、傍から見れば猫と会話している痛い青年だ。 「そもそも、なんでお前また猫に戻ったんだ?」 ミサキだ落ちないように、視線のみを頭上へ遣る響也。 ミサキは目を細め、こう言った。 「寒いしね。それに、街中を全裸で歩くのは倫理的に危ういし」 「は?」響也は目を丸くすると、動揺の混じった声色で黒猫へ訊ねる。 「え……? ナニ、お前さっき、怪人チビ毛布だったの?」 「チビでは無いけどね。まあ、ローブの下に何も着てなかったのはホント」 さらりと衝撃的事実を述べるミサキに、響也は心中で慟哭を上げた。 見たかった畜生、と。 それを察したかのように、ミサキは下に頭を振った。 「見たかった?」 しかしそこは男子高校生。素直に女性の裸体を見たかったと言える筈もなく、 「べべべべ別に!? なな、ナニを言ってくれちゃってるの!?  この硬派な紳士にっ、ジェントルメンな俺に!!」 と彼は体裁を守ることを優先した。――が、それを直後に後悔することとなってしまう。 「なんだ。言えば見せたんだがな……」 欲望を叫んでいた心中が、今後は悲鳴を上げる。 俺のバカアアアアア!! と。 みすみすおいしいイベントを逃した、自称硬派な紳士こと響也は、うっすら目に涙を溜めた。 「と言っても、私の裸体を見たところで、劣情を催すわけもないか」 彼の胸中を知ってか知らずか、勝手に一人ごちるミサキ。 それを受け、男子高校生は危うく「いやいや、そんなわけないでしょ」と口にしてしまいそうになった。 ふと理性を取り戻した響也は、呆れ口調で言う。 「そもそも、年ごろの女性があまり軽々しく裸を見せるんじゃありません」 先ほどまで見たいと叫んでいた青年――もとい性年の言葉とは思えない。 「む……それもそうか」 「まあいいや。話を戻そうぜ」
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