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頭上に黒猫――ミサキを乗せた響也は帰路へ着いていた。
「まあ、いろいろ細かい説明は省かせてもらうよ?」
「とりあえず、魂の行き場とか、すっげぇ重要そうなことは、どこぞの猫もどきみたいに言わないなんてことないようにな」
「分かってる分かってる」
今は辺りに人影が無いからいいものの、傍から見れば猫と会話している痛い青年だ。
「そもそも、なんでお前また猫に戻ったんだ?」
ミサキだ落ちないように、視線のみを頭上へ遣る響也。
ミサキは目を細め、こう言った。
「寒いしね。それに、街中を全裸で歩くのは倫理的に危ういし」
「は?」響也は目を丸くすると、動揺の混じった声色で黒猫へ訊ねる。
「え……? ナニ、お前さっき、怪人チビ毛布だったの?」
「チビでは無いけどね。まあ、ローブの下に何も着てなかったのはホント」
さらりと衝撃的事実を述べるミサキに、響也は心中で慟哭を上げた。
見たかった畜生、と。
それを察したかのように、ミサキは下に頭を振った。
「見たかった?」
しかしそこは男子高校生。素直に女性の裸体を見たかったと言える筈もなく、
「べべべべ別に!? なな、ナニを言ってくれちゃってるの!? この硬派な紳士にっ、ジェントルメンな俺に!!」
と彼は体裁を守ることを優先した。――が、それを直後に後悔することとなってしまう。
「なんだ。言えば見せたんだがな……」
欲望を叫んでいた心中が、今後は悲鳴を上げる。
俺のバカアアアアア!! と。
みすみすおいしいイベントを逃した、自称硬派な紳士こと響也は、うっすら目に涙を溜めた。
「と言っても、私の裸体を見たところで、劣情を催すわけもないか」
彼の胸中を知ってか知らずか、勝手に一人ごちるミサキ。
それを受け、男子高校生は危うく「いやいや、そんなわけないでしょ」と口にしてしまいそうになった。
ふと理性を取り戻した響也は、呆れ口調で言う。
「そもそも、年ごろの女性があまり軽々しく裸を見せるんじゃありません」
先ほどまで見たいと叫んでいた青年――もとい性年の言葉とは思えない。
「む……それもそうか」
「まあいいや。話を戻そうぜ」
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