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「そうだな。まあ、さっきの桜のところでも言ったが、君には『色素反転』という魔術を、手始めに与えようと思う」
「さっきも気になったんだが、なんだ? そのセンスねぇ魔術」
「なっ、失礼な! 私はこの名前を結構長い時間を掛けて練ったんだぞ!?」
「しらねぇよ」
そんなしょうもないやり取りを繰り返しているうちに、響也の自宅であるマンションへと辿り着いた。
「贅沢なところに住んでいるんだな」
「ほざけ」
エレベーターへ乗り込み、六階のボタンを押す。
「元々、家の母親がここの管理人と友人関係でな。そんで、家賃を安くしてもらってる」
「ふむ……。それは俗に言う『枕営業』というやつか?」
「全然違えよ!!」
「おい、エレベーター内で騒ぐな」
「あっ、すまない……っておかしくね?」
エレベーターの扉が開くと、筋肉の鎧を纏った巨躯な男が立っていた。
「…………」
「ああ、弟さん。こんにちは」
「…………」
「えっ? この猫? まあ、拾ったんです」
「…………」
「ああ、良いですよ。あとで姐さんにも見せます」
弟さんと呼ばれる男と響也の会話(?)を黙って見ている黒猫は、終始首を傾げていた。
入れ替わるように響也は降り、弟さんは乗り、エレベーターは降下していった。
「なぁ、今の男、喋っていたか?」
「ああ、弟さんは無口でシャイな人なんだ」
「えっ? じゃあ、なんで意思疎通が?」
細かいことは気にするなとでも言うように、響也は無言で歩を進める。
鍵を開け、玄関へ入り、沓脱で靴を脱ぎ、リビングへと向かう。
「んで? その『色素反転』ってのを与えて? 俺にどうしろって?」
頭上の黒猫を引っぺがし、テーブルの上へ乗っける。
「まあ、率直に言って契約してほしいんだ」
「おい、俺は男だから、魔法少女にはなれないんだぞ?」
男の女体化なんぞ、誰も求めていない。
と、割と真剣な眼でミサキへ言う響也。
「や、だから違うって。とりあず、それの説明から始めるから、大人しく聞いててくれ」
「把握した」
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