第一章 ―能力―

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黒猫は続ける。 「善悪の根幹と、個人の人格はそこまで密接していないんだ」 「つまり?」 「優等生でも屑はいるし、不良みたいなはみ出し者にも、善人はいるってことだ」 「なるほど」 要するに、性格で善悪は決まらない。そう響也は理解した。 「では、早速『色素反転』を与えるか」 ミサキが、机からジャンプして響也の頭上に乗る。 若干バランスを崩しつつも、響也は更に疑問、いや、問題点を口にした。 「俺……彼女作る気ないんだけど」 「えっ? 君はホモなのか?」 「や、違う。そういうんじゃない」 「じゃあ、なんなんだ?」 いちいち視界におさめなくとも、黒猫が首を傾げているのがわかる。 響也は、これっぽっちも悪びれた様子を見せることなく続けた。 「俺さ、失恋したばっかなんだよ」 「え……彼女いたの?」 「いたんだよ。たったの二日だったけどな」 「プッ」 「おい今笑ったか? なぁ笑ったよなぁ? おいっ」 「いやいや、冗談だ気にするな」 「ったく……。話を戻すけど、そんなわけで、俺はまだ失恋のショックから立ち直れていません」 「ほぅ」 「なので、まだ新たな恋へ目を向ける気も、精神的余裕もありませんってことだ」 「ほぅ。まあ、フラグは貯めておくこともできるだろう」 一切気にしていない様子のミサキ。そんな彼女に、失恋少年は声を荒立てる。 「そもそも貯めるもんじゃねぇよ!」 「えっ? でも、ラヴコメの主人公は鈍感スキルを発揮して、フラグを貯めていっているじゃないか」 「それは違う! 絶対違う!」 こいつの微妙に間違った知識を正してやらねば。 この時、響也は固く誓った。――と言っても、ミサキの言動を理解している時点で、彼の常識も一般人より少し外れた位置においてありそうなものだが。 グッズの扱いとか、専門用語とか。
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