序章

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ここは終わりのない世界。 世界から脱出したくても誰一人逃げ切れた人はいない。 悲しみ、苦しみ、怒り。 そんな感情を抱いて最期を向かえる。 いつになったらこの悲しみは終わるのか。 いつになったらこの苦しみは終わるのか。 いつになったらこの怒りは終わるのか。 輪廻転生、生まれ変わっても同じ。 人間はなんて愚かな生き物なのだろう。 同じ過ちを繰り返す。 終わりのない世界を観測し続けて何千年目になるのか。数えるのも億劫になってしまった。 人間は今日もまた同じことを繰り返すんだろうと思いながら観測を繰り返す。 「ババ様!!」 草原から銀髪の少女が駆けてくるのが見える。 「ユキ?そんなに息を切らして一体どうしたんじゃ?」 白い頬を紅く染め、肩で大きく息を吸いながらも満面の笑みを浮かべている。 「ババ様、カッサンドラがね」 「カッサンドラ?」 カッサンドラとは自称預言者の娘だ。 しかし肝心の預言は全く当てにならない。 槍の雨が降ると言ったり一夜で国が滅亡してしまう。などと与太話ばかりする。 「ユキ、カッサンドラの言うことに一々反応するんでない」 そんな与太話を信じているのは村でもこのユキだけだ。 「でもババ様!カッサンドラが世界の終わりがくるって言ってるんだよ!」 「終わりなど永遠にこんよ」 望遠鏡で覗きながら中断した今日の観測を再開する。 人間界は今日も相変わらず……と。 「だって終わりを告げる子が生まれるって」 「それもカッサンドラが言ったことじゃろ?」 カッカッカと大笑いするとユキは膨れっ面になった。 「なんでみんなカッサンドラの言うことを信じないの?」 「そんなことより我々エルフにはやることがたんまりあるじゃろ」 エルフは長命故に世界の観測者としての任務を与えられている。 いや、長命だけではない。他の種族に干渉しないため第三者の立場で世界を眺めることができるからこの任務を与えられたのだろう。 「今日の勉強はもう終わったもの。それよりもカッサンドラのことが大事なの!」 カッサンドラ、預言。 ユキはどうしてカッサンドラのことを信用しているのか。 終わらない世界を終わらせるなんて冗談にも程がありすぎる。 世界を終わらせる子が生まれる……。 何千年と世界を観測していてこんな話、信じろという方が無茶である。
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