プロローグ

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酷く澄んだ水晶の 光も透かすその中に ただ一滴の墨垂らす みるみる内に淀む玉 日影を自身に招き入れ げに愉快やと戯れて 笑い合ったは遠き日々 めしいの老婆が耳病んで つんぼの老婆になったよう 一人沈黙決め込んで 床几の上へ腰降ろす 何度も何度も声掛ける ちょっと離れた岸辺から 或いは彼女の耳元で 音吐朗々口ずさむ 善の精華を賛美し古詩を 私が発する無邪気な問いに そっと湛えた柔和な笑みと 親しみ持てる至言を以って そんな私を掻きいだく 嗚呼、戻れよや戻れよや あの日、あの時、あの場所に 嗚呼、戻れよや戻れよや あの君、あの笑み、あの胸へ 嗚呼、戻れよや戻れよや 嗚呼、戻れよや戻れよや 何時ぞやなくした魂を 捜し求めて彷徨す 空虚極まる肉体抱え 彼方此方を彷徨す 我は何ぞと問いけるも その声、大気に飲み込まる 我は何ぞと問いけるも 帰って来るのは風の音 我は何ぞと問いけるも 我は何ぞと問いけるも 寂漠の情、湧きいでて 我は何ぞと問いけるも 我は何ぞと問いけるも 斜陽認めて閉口す
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