0人が本棚に入れています
本棚に追加
酷く澄んだ水晶の
光も透かすその中に
ただ一滴の墨垂らす
みるみる内に淀む玉
日影を自身に招き入れ
げに愉快やと戯れて
笑い合ったは遠き日々
めしいの老婆が耳病んで
つんぼの老婆になったよう
一人沈黙決め込んで
床几の上へ腰降ろす
何度も何度も声掛ける
ちょっと離れた岸辺から
或いは彼女の耳元で
音吐朗々口ずさむ
善の精華を賛美し古詩を
私が発する無邪気な問いに
そっと湛えた柔和な笑みと
親しみ持てる至言を以って
そんな私を掻きいだく
嗚呼、戻れよや戻れよや
あの日、あの時、あの場所に
嗚呼、戻れよや戻れよや
あの君、あの笑み、あの胸へ
嗚呼、戻れよや戻れよや
嗚呼、戻れよや戻れよや
何時ぞやなくした魂を
捜し求めて彷徨す
空虚極まる肉体抱え
彼方此方を彷徨す
我は何ぞと問いけるも
その声、大気に飲み込まる
我は何ぞと問いけるも
帰って来るのは風の音
我は何ぞと問いけるも
我は何ぞと問いけるも
寂漠の情、湧きいでて
我は何ぞと問いけるも
我は何ぞと問いけるも
斜陽認めて閉口す
最初のコメントを投稿しよう!