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彼の登場は目を見張らずには居られないほどに華々しいものだった。
高校二年生にして生徒会長選挙に立候補し、圧倒的に不利な状況を着々と好転させ、終いには下馬評を物の見事に打ち破って当選を果たした。
選挙戦最後の日に行われる全校生徒参加の立会演説会。
壇下を睥睨する雄々しき姿は他の追随を許さぬ風格を湛え、壇上にて振るわれる熱弁とそこに込められた彼の万感は嚇嚇たる灼熱の火だるまとなって、聴衆の鍛鉄のように頑なな心を溶解した。
未来を指し示す集合意識の羅針盤は数十年振りに錆び付いた指針を右に回転させた。即ち運命の大時計は新時代の黎明を告げたのである。
洋々たる明日が確約されているのではない。
しかし、この一日が遠い将来、高校にとって歴史的な転換点だったと語り継がれるであろう確信めいた予感を、一同が抱懐した。
高遠な目標を指向する帆船は、帆に目一杯こちを孕ませながら、目的地へ向かって今しがた大洋に漕ぎ出した。
生徒会は完全な二期制を採用しており、会長ならびに各執行役員の任期は半年間で、上半期は四月から九月、下半期は十月から三月となっていた。
三年生は、受験の影響から下半期の選挙に名乗りを上げることは出来ない。
このことから、上半期は三年生が担当し、下半期は二年生が担当すると言う慣習が醸成されていった。
これは宛ら帝と奴婢との間に交わされた黙契のように、筆舌に尽くし難いほど絶大な効力を有するもので、本校創立以来、ついぞ破られることなく受け継がれた半ば強迫的な伝統でもあった。
三年生が担当し得る時期に、二年生が玉座に腰を掛けるなどと言うのは恐れ多いこととして生徒に認識されていたのだ。
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