前程万里[ゼンテイバンリ]

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しかし万が一、私達がそのように思うのなら、私達は低級な快楽ばかりを追求する自分の側しか知らない愚か者であり豚であると言うことだ。 視野の狭窄なこの両者は常に安逸へと傾いている。彼等は惰眠を貪ることに全神経を集中させている。疑問を疑問に感じまいとして日常の問いにそっぽを向いている。 生徒諸氏よ!立ち上がれ! 汝、不満足なソクラテスであれ! 周囲を見渡し疑問を抱け! 習慣と常識に捕われた卑しき奴隷になるな! 考えよ、いつ何時も考えることを止めてはならぬ! 彼は題に据えた一文に斯様な思いを込めたのである。 ホームページのメニューには、上から討議場(トウギジョウ)・実相・提起・私見・日々是鳥瞰・小説・短歌があり、討議場ではいくつかに区分けされた人数制限のある部屋でそれぞれひとつの事柄について生徒同士が意見をたたかわせ、実相では彼がみききした校内外の生徒や教諭の真実のすがたを人物が特定できないように描写し、提起では実相をみて彼の心中にうかんだ疑問をありていに書き込み、私見では提起にたいする彼自身の意見を開陳する。 日々是鳥瞰は、学校とは無関係の世間でのできごとに照準をあて彼なりの考えを披瀝する場だ。これは、学校のことばかりで食傷気味になった生徒の気分を入れ替えるための配慮であり、また、討議場できりむすぶ生徒に議論の種を与えるためでもある。 小説や短歌は、議論や提起に丸で興味のない生徒から、硬派なサイトであるとして敬遠されないよう、予防措置として始めたものだ。 小説では帝の存廃について国が二分するなかで、かつて数多の戦陣をともにし昵懇の間柄であった上官と部下が無情にも各陣営の頭取となって真っ向から衝突するさまを、帝と民衆、主人公らの心理などを織り交ぜながら描いたもので、短歌は学校や近所のようすを季節の移ろいを畳み込んで歌ったものである。 以上のことからも伺えるように、彼はホームページ《不満足なソクラテスであれ》に己の全てを賭けた。
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