―序章―

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「ご主人様……」 海に浮かぶ一隻の船。 風の精霊魔法を使用し、船の左右にある魚のヒレのような帆に風を送って海を進んでいる。 甲板で静かに波を見つめている黒衣の男の後ろから、心配そうな表情をした少女が声をかけた。 「アリスか」 男は振り向かずに少女の名を言う。 アリスは少し躊躇ったのち、男の隣へと移動した。 「ご主人様、腕は大丈夫ですか……」 「まだ慣れてはいないが問題はない。アイツは人形オタクだが、技術者としての腕は確かだ」 機械で作られた腕をアリスに見せる。 アリスは腕にそっと触れ、その腕を抱き締める。 体温ではなく、機械のひんやりとした温度がアリスの頬に伝わった。 「ご主人様が傷付くのは嫌です、私……」 「理想のためだ、仕方がない」 「――争いのない世界……できるんでしょうか……」 「私達の手でするのだ」 「他の命を奪っても……?」 「……何が言いたい、アリス」 男はアリスに視線を落とした。 アリスはサッとうつむき、腕を更に強く抱き締めた。
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