ー第三章 王と王子と王女と宝とー

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振り向くと、抱きついているルシアと目が合った。 別れた時とは違う髪型、違う化粧をしていて、まるで別人のようだ。 だけど、人を真っ直ぐ見る茶色い瞳はそのまま変わらない。 「あまり国王を困らせちゃいけないよ。それにまだ話をしている途中だから、せめて終わるまでは待っていてくれないかな?」 僕はルシアに語りかける。 「お話くらいならこの状態でもできるじゃない?」 「ルシアの言う通りだけど、国王として、王族として、僕は君達に傅く立場の人間だから、ちゃんと線引きするところはしなくちゃいけないんだよ。わかるだろ?」 「わかるけど、私そういうの嫌い」 「僕も嫌いだけどさ、こういうことはしっかりしなくちゃ。ね? せっかくルシアに似合う綺麗な姿なのに、こうしていると汚れたりヨレたりしちゃって勿体無いよ」 僕は微笑む。 王族が着る服なんだ。生地だって僕らが使うようなものより遥かに高いだろう。 そんなものを汚したりしてしまったらと思うと、僕は気が気でない。 ルシアも納得したのか、少し顔を赤らめながら、僕から離れた。 「そんなに言うなら、おとなしく待ちますわ、私……」 ルシアはスカートの表面を軽く払い、服や髪を直す。 「お父様、早くしてくださいませ。私、長くは待ちませんから」 そう言って、玉座のそばにあった椅子に腰掛けた。 カフカがルシアのそばに駆け寄り、僕を見て軽く頭を下げた。
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