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彼女に話さなければいけない事。 それは、父親である崇さんが自分の変わりに死んだという事実だ。 その事を考える度、俺の心はしくしくと痛む。 杏がこの事を知ったら俺を憎むかも知れない。 それが怖くて……今まで彼女に話せなかった。 でも、例え憎まれても、杏には本当の事を知って欲しいし また、知る権利がある。 俺は彼女と一緒に中庭のベンチに腰を降ろすと、あの日の全容を語った。 話し終えた後、やはり隣からは、すすり泣きの声が聞こえた。 「杏……ごめんな……」 どうしたら良いのか解らない俺は、ひたすら彼女に謝る事しかできない。 だけど杏は、小刻みに首を振りながら「何で……謝るの?」と俺に聞いた。 「何でって……俺の変わりに崇さんが……」 「変わりじゃないよ。 パパは私のお願いをきいてくれたんだよ。 パパが亡くなる少し前に、私が願ったから」 「願った? 何を!?」 「パパに聖が好きか?って聞かれたから、好きだって答えたの。彼が隣にいると幸せな気持ちになるって……」 「杏……」 「あの時の私は、勿論あなたの状態を知っていた訳じゃない。 でもパパは、そんな私の気持ちを願いとして、汲んでくれたんだと思うの」 彼女は後から滲み出てくる涙を堪えて、必死に不器用な笑顔をつくってみせる。 「だから……聖は謝ったりしないで あなたが生きていて、一番嬉しいのは私なんだから……」 瞬間、俺は人目も気にせず声を上げて泣き崩れた。 止めようとしても止まらない感情。 言葉では言い表せない程の複雑な想い。 それらがみんな涙になって溢れ出す。 でも今、頬に流れるこの熱さは、当然の事じゃない。 崇さんがくれた……【奇跡】なのだ。 俺は、これからもこの奇跡に彩られた道を、懸命に歩いて行こうと思う。 そして、もう1つの大切な奇跡を守りたい。 杏……君は俺に大切な事を教えてくれる、かけがえのない奇跡。 俺は、これから毎年……君と食べるクリスマスケーキの為に生きよう。 そう固く心に誓った。
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