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ーー数年後
その日、街はどこまでも続く真っ白な雪化粧に包まれた。
何気なく空を見上げると、ヒラヒラと舞い落ちてくる氷の華が、教会の前を通り過ぎようとした僕の頬で液体に変わる。
瞬間、重そうなチャペルの鐘が振り子のように揺れて鳴り始めた。
その鐘を合図にして、果てしない空に放たれる無数の白い鳩。
「結婚式か……」
僕は、教会前の階段に列を作る大勢の人々を眺めて立ち止まった。
間もなく両開きの扉が開かれて、純白のウェディングドレスに身を包んだ花嫁と、同じく白いタキシードを着た新郎が姿を見せる。
「おめでとうっ!!」フラッシュみたいに次々と浴びせられる祝福の声。
2人はしっかりと腕を組みライスシャワーの嵐の中、にこやかに段差を下る。
新郎、新婦共に、とても幸せそうだ。
その時、ふいに背後から肩を叩かれて僕は振り返った。
「クリスマスイブに結婚式なんて羨ましいわね」
この、鼻にかかった甘ったるい声で話しかけてくる女はマユといって
同じ高校に通うクラスメイトだ。
「日曜日にどこに行くの?」
無視して歩き出した僕の後を、彼女は人なつっこい仔犬のようについてくる。
「どこって、僕ら受験生だろ?
図書館で勉強すんだよ」
うざったそうに答えると、マユは前方に回り込んで大学入試の問題集を翳した。「あら偶然ね。わたしも今から図書館に行くのよ」
「へえ~」
「何、その気のない返事!ねぇ、ここで逢ったのも何かの偶然だし
一緒に勉強しようよ」
白いマフラーの先を指でもて遊びながら上目遣いを僕に向ける彼女。
この可愛さ
もう悩殺もんだ。
冗談じゃない!
マユと一緒にいて勉強なんか頭に入るもんか!
「いや、図書館までは一緒に行ってやってもいいけど、後は離れて勉強してくれ!」
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