一章 風峰 鈴

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「すみません。行儀の悪い子で」 小鵺耶は目の前にいる男に深くお辞儀した。そのあと小声で、この縁談が無しになることは許しませんからね。ときつく言ってきた。 そう、今日は鈴の縁談の日なのである。勿論その中に鈴の意思などは微塵もない。今日のこの縁談は小鵺耶が勝手に作り上げたもので、聞くところによると、とある有名な会社の社長。との事だった。まだ努めて数年らしく嫁となるべき親しい女性はいない。 そんな男を小鵺耶はどうにか話をつけ、この縁談に持ち込んだのだ。 小鵺耶の狙いは金だ。鈴もその為の道具だとしか思っていない。 鈴は無理矢理小鵺耶に言わされて、渋々男と会話をする。なんの感情も湧かないつまらない男だ。 早く終わらしたい。そんな感情が鈴を渦巻く。 気がつけば母は居なくなり、男と二人きりになっていた。 男は目尻と鼻の下を、これでもかと、いうふうにのばし鈴を見つめている。……きもちわるい事この上ない。 しかし、鈴は小鵺耶の言い付けを破らない為にも、必死で作り笑いをしていた。
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