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もう1人の男の方は刀を振り鞘に納める。その時、音と共に返り血が壁に着いた。
その音には現実味がしなかった。自分はただ、悪い夢を見ているんだ。そう思うことでしか、自我を保てなかった。
周りの声がだんだん聞こえなくなっていく感じがする。なのに、どんどんと鮮明になっていく裸眼の景色。
鈴は必死に頭の中で状況を理解しようと、考えを巡らせていた。
(これは夢?それとも現実?)
誰に聞いてる分けでもないので、当然の如く答えなど返って来ない。出来れば夢であって欲しい。あの、忌々しい現実は嫌なのだが、今よりはきっとましな筈だ。
「俺は務めを果たすべく動いたまでだ……」
ふと、そんな時。目の前の男の羽織が目に入った。淡い蒼のような。そんな感じの色合いのような気がする。暗くて、あまりよく見えない。
(この羽織は………)
でも、なにか分かった気がした。
ゆっくりと雲が流れているそんな気がした。まるで時が止まったかのように感じた。
辺りがキラキラと輝く。雪が降っていたみたいだ。空を少しあおいでみた。
(綺麗……)
今の現状を忘れてしまうほどの絶景だった。
そんな事をふと考えた時だった。
「……あ」
鈴の後に居るの少女が、恐怖で震えながら呟いた。
考えるまでもなく、その理由を理解した。
無理もないかもしれない。
なぜなら、鈴達に突きつけられたのは、紛れもなく刀だったのだから………。おもちゃ等ではない。本物の刀だ。
もう1人、同じ羽織姿の男がいたみたいだ。
(きっとこの男の人が残りのあの化け物みたいに狂った男を倒したんだ)
その人は鈴達を見つめてそれから……
「いいか、逃げるなよ。背を向ければ、斬る」
そう吐き捨てるように言い捨てた。
(え!?今なんて言ったの?)
鈴とその後ろの少女は驚きを隠せずただただ黙っている。
後ろをちらりと見てみると少女は腰を抜かして目の前の羽織姿の男を見つめていた。
やや強い風が鈴の頬を吹き抜ける。
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