一章 風峰 鈴

9/10
前へ
/145ページ
次へ
目の前に立つ男の漆黒の髪が空に舞う。 強い視線で鈴達を睨むその人はまるで―――――――、狂い咲きの桜のようだった。 「副長、死体の処理は如何様に?」 白い襟巻きを巻いた、男が鈴達に刀を向ける男に聞いた。 「羽織だけ脱がせておけ。後は監察に処理させる」 男が答えた。2人とも違う場所を見ていた。 と、もう1人の男が近づいて来た。 「それより、どうするんです?この子達」 近づいて来た男が隊長らしき男に問いかけた。 少しの間あけて男は 「屯所に連れていく」 と男は吐き捨てた。 「あれ?始末しなくていいんですか?さっきの、見ちゃったんですよ?」 男は何故か口元に笑みを浮かべながら問う。 「そいつらの処遇は、帰ってから決める」 (助かったの?) 鈴は安堵の息を漏らす。 その瞬間、何かが倒れる音がした。 どうやら、鈴の後ろにいる少女が気絶してしまったようだ。 彼女は気絶し、鈴はと言うとずっと下を向いていた。 「………運のない奴だ」 そう、聞こえた気がした。 ――そのあとの事は、覚えていない―― 分かることは。懐かしい声が聞こえた……ということだけ。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

346人が本棚に入れています
本棚に追加