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気づけば、辺りは真っ暗な場所にいた。周りを見渡しても、何も見えないし何も聞こえない。
そんなところに一人、というのが鈴にとっては恐怖でしかなかった。
けれど、このまま此処に居ても仕方がない。まるで鉛を付けられたかのように重くなった足を動かす。
コツコツと自分の足音が反響して聞こえてくる。
本当に何も無いようだ。この道を先程から歩いてはいるのだが、一行に端が見えない。
辺りを見回し、また深い溜め息を付いた時だった。
突然、微かではあるが何かの足音が聞こえた。はっとして顔をあげる。足音は聞こえる筈なのに、姿が分からない。
けれど鈴は、恐怖より好奇心と安堵の方が高かった。
よく聞こえるように耳を澄ましてみる。確実に鈴の元へと走って来ていた。
だんだんと足音は大きくなり、それが不意に止まった時。凛とした少女の声が聞こえた。
「貴女が鈴さんですね」
(私のこと……?)
「って、うわぁ!!」
鈴自身、気づかなかったが、実はいうともう目の前まで来ていたのだ。
目の前の少女は、暗闇でもはっきりと分かるくらいの、鮮やかな金髪だった。
蒼の瞳が印象的だった。
「此方としても、誤算でした。まさかあの様な輩に見つかってしまうとは……」
そう吐き捨てるようにいった。
もちろん、鈴はなんの事だか分からない。
「………?」
すると少女はなかにかを察したのか、先ずは順をおって説明しましょう。と切り出した。
「貴女の先代より、頼まされました。名を千夏と申します。私は、分家の支倉家当主をさせていただいております。貴女を、お連れするようにと言付かっています」
「(分家?)……なんで?」
「それは私には答える事が出来ません。……先代様にお訊きなさってください」
目の前の千夏という少女は、深く頭を下げるとニコリと笑った。しかし、目が全く笑っていない。
「では、また…いずれ…」
そう千夏が言った瞬間意識が闇に沈んでいく………。
まだ、聞いてない事があるはずだ。分家?先代?一度も聞いたことがなかった。
「待ってよ!!まだ聞きたい事が……ある…の……に……」
言葉は最後まで続かず、あとは自分の嗚咽だけが微かに聞こえた。
意識が浮上していく。あぁ、先程のは夢だったのだと気づく。
鳥のさえずりが聞こえ、重たい瞼を上げていく。
そこには、昨夜会った少女の顔があった。
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