346人が本棚に入れています
本棚に追加
視界がぼやけているが、はっきりと分かる。
淡い桃色の袴を着て、髪を高く結っている彼女だ。男装しているつもりなのだろうが、はっきり言って彼女の顔立ちが可愛いといった関連の物のため、女の子にしか見えないだろう。
目は伏せているが、その顔に疲労がありありと残っている。
昨日の出来事を思い返し、無理はないだろう。と思う。
せめて、もう少し寝かせてやろうと思い、弾かれた布団を掴んだ直後、もぞもぞと少女が動き、寝返りをうった。
閉じられた瞼が次第に開いていく。
そして、あまり時間は経たずに彼女は起きた。
「う~ん……あれ!!」
彼女は、起きたかと思えば、突然声を上げた。此処が何処だか分からないためなのだろうか。
「……どうしたんですか?」
鈴の存在に気がつかなかったのか、声をかけるとビクリと肩を大袈裟に揺らし驚いた。
なにか話しかけようとし、口を開いた瞬間、襖が静かに開いた……。
「目が覚めたかい?」
中に入って来たのは、温和な感じのする中年の男の人だった。
入って来ると同時に、申し訳なさそうにして謝る彼。
「すまんなぁ。こんな扱いで……。あぁ、総司の奴こんなにきつく縛ったのか」
痛かったろう、とため息をつく。恐らく、鈴に食い込んでいる縄のせいだろう。
「今、縄を緩めるから少しまっていておくれ」
男は素早く縄を解き、両手を緩く縛り直した。
すると、後ろにいた少女が恐る恐る呟いた。
「あ……あの……。ここはどこですか?あなたは一体…?」
「あぁ、失礼…。私は井上源三郎。ここは新撰組の屯所だ」
「新撰組……?」
新選組。それは鈴が歴史のなかで一番好きなものだった。そんな単語を聞き、つい心が跳ねてしまう。
少女は思わず「あっ」と言って井上から離れた。血に染まったあの羽織を思い出してしまったのだろうか。だとしたら、耐えられない恐怖だろう。
最初のコメントを投稿しよう!