一章 風峰 鈴

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一章 風峰 鈴

季節は春。 穏やかな日差しが、桜の木の下にいる少女に降り注ぐ。 空はどこまでも青く穏やかだ。その綺麗な光景を見て通り行く人々は柔らかな笑みを讃える。 けれど、少女は違った。 ひらひらと、舞い降りてくる桜の花びらのなかで、その少女は悲しい顔をしていた… 目には輝きがなく、まるで死人のように。 少女は言った、絶望にも、憂いにも近い声で。 「つまらない世界」 そう言った瞬間、突風が吹き桜の花弁が宙を舞う。 まるでそれは、少女の言葉を否定しているようにも見えた。 彼女は孤独だった。 生きている事が苦痛だと思う程に。 幸せとは何だろう。人に言われて、されて。そう思うのかそれとも、自分自身がそう感じるのか。 そんな偽りの言葉なんて、価値もない戯れ言だ。ただ現実を見ない弱い奴が信じる、夢や願いみたいな物だ。 必ず、最後は一人になる。皆裏切るんだ。それなら、初めからそんなものなくていい。辛くなるなら、最初から一人の方が楽じゃないか。 そう思い、また空を見上げた。果てしなく続くこの空は何処まで続いて行くんだろう。 ふと、そんなことを考え、あることに気づく。 この後、彼女にとっては大事な事があったのだ。 急いで立ち上がり、そう遠くない自分の家まで走り出した。image=435762470.jpg
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