344人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
走り始めて数分、家と家の間にある少し大きめの屋敷に着いた。
彼女の家だ。
しかし、彼女は此所を自分の家だと思いたくないくらい毛嫌いしていた。
嫌だと思いながらも、慎重に歩みを進める。そして、ようやく玄関である扉にたどり着き、ゆっくりと開け中に入った。
中に入ると彼女の母、小鵺耶(コヤカ)がいた。
彼女は鈴を射るように見つめ、口を開いた。彼女のとても整った顔から怒りの色が見える。
「……今まで、何処に行っていたのですか?」
『…………………』
いつまでたっても話そうとしない鈴に小鵺耶は溜め息し、踵を返してから。「先方の方がお待ちなので早く来なさい」とだけ言うと着物姿のまま奥へ行ってしまった。
少し取り残された鈴は、ハッと気づき急いで自室に駆け込み、制服から和服へと身を包んだ。
少しだけおぼつかない足取りで先ほど母、小鵺耶が入って行った部屋の襖を、静かに開けると、目の前には眉間にシワをよせ整った顔を台無しにする小鵺耶と、歳は23くらいだろうか、少し小太りの男がいた。
彼は鈴を見るとすぐに笑顔になり、少し頬を紅く染める。
鈴はそんな男のことを、心底つまらなさそうにお辞儀をし母の隣へと腰を下ろした。
向かっている途中、小鵺耶が睨んでいたが気にはしない。いつもの事だ。
最初のコメントを投稿しよう!