一章 風峰 鈴

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走り始めて数分、家と家の間にある少し大きめの屋敷に着いた。 彼女の家だ。 しかし、彼女は此所を自分の家だと思いたくないくらい毛嫌いしていた。 嫌だと思いながらも、慎重に歩みを進める。そして、ようやく玄関である扉にたどり着き、ゆっくりと開け中に入った。 中に入ると彼女の母、小鵺耶(コヤカ)がいた。 彼女は鈴を射るように見つめ、口を開いた。彼女のとても整った顔から怒りの色が見える。 「……今まで、何処に行っていたのですか?」 『…………………』 いつまでたっても話そうとしない鈴に小鵺耶は溜め息し、踵を返してから。「先方の方がお待ちなので早く来なさい」とだけ言うと着物姿のまま奥へ行ってしまった。 少し取り残された鈴は、ハッと気づき急いで自室に駆け込み、制服から和服へと身を包んだ。 少しだけおぼつかない足取りで先ほど母、小鵺耶が入って行った部屋の襖を、静かに開けると、目の前には眉間にシワをよせ整った顔を台無しにする小鵺耶と、歳は23くらいだろうか、少し小太りの男がいた。 彼は鈴を見るとすぐに笑顔になり、少し頬を紅く染める。 鈴はそんな男のことを、心底つまらなさそうにお辞儀をし母の隣へと腰を下ろした。 向かっている途中、小鵺耶が睨んでいたが気にはしない。いつもの事だ。
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