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せっかく買った美しい着物が汚れてしまっては適わないという禄貴さんの言葉に逆らえず、
私は禄貴さんに抱えられるようにして馬に乗っていた。
初めての乗馬、見ているよりずっと早く走っている。
軽く酔いを感じながら、城へと向かっていった。
・・・
「これは禄貴様、お帰りなさいませ。そちらのお方は・・・、」
「ああ、丁度良いところにいたなお琴。
こいつは雛子といって変わったやつだ。今から六衛門様に会わせてくる。」
「左様でございますか。」
城に入ってすぐ、深く頭を下げて私達を出迎えてくれたのは女中さんのような人だった。
お琴と呼ばれたその人は屈託のない笑顔にそばかすが印象的な人だった。
お琴さんは私に一礼してその優しい笑顔のまま私に挨拶をしてくれた。
「これは、なんてお美しいお方でしょう・・・。
あ、大変失礼いたしました。
私は禄貴様にお仕えしております、お琴と申します。
雛子様、どうぞ何かお困りでしたらすぐにこのお琴にお申し付けくださいませ。」
私にまた頭を下げてまた私を優しい眼差しで見てくれた。
ふと我に返り私もお琴さんに対して一礼して答えた。
「あ、私は八乙女雛子と申します。
どこか、遠い場所から来てしまったみたいで・・・禄貴さんに助けていただきました。
どうぞ、よろしくお願いします。」
慣れない敬語を駆使して私は最後にまた一礼してお琴さんを見た。
すると彼女は今にも泣きそうな、眉根を下げて私の手を握って言った。
「それは何と苦労なさっておられるのですね・・・何とお辛いことでしょう・・・このお琴でよろしければ何でもお力添えできるようがんばります故、どうか御一人で抱え込まぬようお気をつけなさいませ・・・。」
うるうるとした目。
嘘偽りなく、彼女は私の代わりに心を痛ませているのだろう。
現状を理解しながらも尚、現実逃避している、私の代わりに。
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