記憶

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水気を多く含んだ雪がアスファルト一面に広がっている。 その上を沢山の荷物を積んだ軽トラックがガタガタと音をたてて通り過ぎると、タイヤで出来た20センチ程の溝から小川のように冷やっこい雪解け水が脇の木々へと注がれていく。 僕が8歳になった日、家族は今まで住みなれたアパートを離れ、同じ市内の一軒家に引っ越してきた。 僕はこの家で初めて自分の部屋という場所を与えられた。 しかし部屋にテレビは無く、叔母から頂いた虫や動物といった類の図鑑が物置代わりとして部屋の隅の本棚に鎮座していた。 他に変わったところというと、以前のアパートには部屋が2部屋しかなかったのに対し、ここは6部屋もあり、何しろ母親が憧れていたであろう庭がついている。 けれど子供の僕には家族皆が別々の部屋にいるということ、そしてガランとした部屋に1人きりという孤独が充満していた。
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