空を駆ける女の子をひたすら描写するだけのお話

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 雲一つない青空。その澄み切った薄い水色は、見る人の気持ちを軽やかなものに変える。  そんな澄み切った水色の中に一つ、少女の人影が溶け込んでいた。   出井 和音(でい おね)。それが今年で十八になるその少女の名前であった。  彼女が身につけている服は白いパーカーに青いジーンズ地のハーフパンツといったラフな格好だ。ハーフパンツからは細くて長い脚が伸び出ており、力強く空中を蹴るその姿は、見るものに山岳を駆るカモシカを彷彿させる。  和音は階段を登るようにどんどん上にあがっていく。宙を蹴るたびに、長い黒髪が風にのってはためいた。  彼女が空を駆け上がりはじめて二分が経った今。彼女は、彼女が上れる最高地点まできていた。  高度三千メートル。それは超高層ビルの二倍以上の高さであった。  それほどの高さともなれば、気圧もかなり低くなっている。 そのため、パーカーにハーフパンツなんて南極で素っ裸なのと大した差はないのだが、和音は平然としている。  おそらく、気圧変化による気温の変化は無視されているのであろう。空を駆けるなんて奇特な能力を持っているのだから、そんな能力を持っていても不思議ではない。  気圧による温度変化を受けていないため、和音の頬は少し桜色に染まっており、額から汗が流れていた。高度三千メートルも上ってきたのだ。汗をかかないほうがおかしい。  和音は軽く手で汗を拭ってから、今度は地面と平行に空を歩きはじめた。  和音が宙を蹴るたびに身体が少し浮き上がり、まるでスキップをしているようである。  十歩ほどスキップをしたところで、突然、轟音が空を引き裂いた。  近くの自衛隊基地を目指して飛ぶ、小型航空機である。  航空機は和音の百メートルほど先を通過していった。  和音は航空機の後ろ姿に手を振り、またスキップをしはじめた。  そこから数十歩ほど行ったところで、再び立ち止まった。  どうやら目的地が見えてきたようだ。  そこから和音は、階段を降りるように、ゆったりと高度を下げてゆく。  和音がいたところからちょうど二千三百六十六メートルくだったところに、コンクリートでできた円形の地面があった。  和音は、そこに腰をかけ、下を見下ろす。  日本で一番高い建造物の一番高い所から眺める景色。それは息を呑むほど素晴らしく、それは和音だけの特権でもあった。
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