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『将来の夢は何?』という質問に対するオレの答えは、幼稚園児の頃からいつも同じだった。 『ピエロになりたい』 『好きな文学作品は?』という質問に対する答えも、いつも同じだった。 『太宰治の「人間失格」』 オレは別に、人を欺きたい訳じゃない。 ただ、自分を殺せる人に、役柄に、職業に憧れを抱いていただけだ。 単に我慢するんじゃない。 自分を偽る為の仮面を被り、本当の自分を一切表に出さない事に憧れていた。 ピエロを好きな理由も、それに準ずる。 バカな自分を装い、周囲に笑いをもたらす。 なんて素晴らしい職業なのだろうか。 そして、その職業に向かって努力を重ねた。 あらゆる曲芸がこなせるように、体を鍛えてきた。 さらに、いつでも完全に自分を殺せるように、仮面を被り続けた。 つまり、あまり人に本音を漏らそうとしなかったのだ オレが仮面を外して接する奴なんて、家族を抜いたらたったの三人だ。 幼なじみである四宮鈴(しのみやりん)。 親友である霜月亮(しもつきりょう)。 中学からの悪友である千葉茜(ちばあかね)。 この三人とは、いつも仲良くしていた。 前もって言っておくが、この三人は互いに面識が殆ど無いに等しい。 俺とは交友を持っていても、他の二人とはあまり接点が無いのだ。 オレが時々話に出して、それを聞いて名前を覚えたって感じだったりする。 更に言うと、オレの片恋相手は鈴だ。 小学生の頃からずっと好きだった。 想いを伝える事はしなかったが……。 それでも、オレは鈴に片想いをしながら、亮や茜と楽しく過ごす日常を好んでいた。 願わくば、こんな日常がいつまでも続けばいいのに……と。 しかし、そんな願いは、高校二年生の時にぶち壊される事となってしまった。 日常が歪み始めたのは、オレが被っている仮面にひびが入る事から始まる――――……。
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