武田信玄編2

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源助は随分と出世した。 今では普通の家臣と同じく剣術の稽古に励んでいる。 熱心な姿は他の誰より目立って美しい。 他の男が横恋慕してもおかしくないほどだ。 しかし源助は私だけを愛していると言う。なんと健気で愛らしいことか。 なのに私は彼を裏切るようなことをしてしまった…。いや、してはいないが、しようとした。 弥七郎という小姓に手を出そうとした。毎回弥七郎は腹痛を理由に相手をしてくれなかったが、きっと源助の存在を気にしていたからだろう。 まだ源助には知られていないようだが、知られたら確実に信頼を失う。嫌われてしまうかもしれない。 軽率なことをした数日前の自分に腹が立つ。それと、弥七郎のことを未だに気にしていることにも腹が立つ。 男なのだから一途にならなくてはいけないのではないか。 いくら愛人関係だからといって、愛を誓った相手に失礼な行動を取ったことをもっと深く反省すべきではないのか。 源助に嫌われても仕方のないことなのに、嫌われたくないと思う女々しい自分が赦せない。 源助の方からやって来るまで、自ら源助に触れることはしないでおこう。 節操なしで、他の男に触れようとしたこの手で彼を触ってはいけない気がするのだ。 しばらくは自室に篭ろう… 【源助視点】 稽古が済んで縁側を見る。 先程から稽古の様子を見守ってくださっていた御屋形様…が居ない? 途中で席を立たれたのだろうか。 気づけなかった自分が不甲斐ない。 「お疲れ」 汗の染みた手ぬぐいを複数ある共同の桶の一つで洗っていると、少し離れた桶で洗っていた先輩方の話が耳に入ってきた。 「聞いたか?御屋形様の…」 「あぁ、弥七郎に手を出したという…」 「源助の耳に入らないよう気をつけねぇとな…」 …聞こえているが。 御屋形様が弥七郎という男に手を出した…、誠かはわからないが本人に問いただす価値はありそうだ。 先輩方だって嘘の噂に翻弄されているだけかもしれない。 それこそ定かではないが…。 表情は冷静を装っているけれど内心は怒りの炎が燃え盛っている。 それを鎮める為にも前向きに考えているのだ。 しかしもし噂が誠であれば… 僕は正気でいられるのだろうか…。
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