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信長が天下統一に乗り出した頃、私も信玄を潰しにかかろうと奮闘している頃か。
城に来客があった。
来客なんて毎日のことではあるが、今回はいつもとは訳が違った。
「謙信様、お久しゅうございます」
「貴様は確か…」
覚えがある、あれはいつかの少年。
私を抱きたいと言った唯一の少年だ。
「覚えていらっしゃいましたか!僕は3年前、一晩相手をさせていただいた、雪之介といいます。やっと名乗れましたね」
「雪と呼ぼうか。それはさておき、貴様が私の所へ来たということは…」
「はいっ、その道で出世して参りました!謙信様が欲求不満にならないように是非専属にしていただきたいのですが…」
「間に合っておる…」
数年前と変わらずよく喋る。
正直私には必要のない存在だ。信用もできないし、好みでもない。
「もしかしてまだ取っ替え引っ替えしてるんですか!?」
「…声がでかい…」
あからさまに嫌な顔をするとおとなしくなった。
しかしまだ喋る。
「やっぱり一人にした方がいいですよ。もし謙信様を良く思ってない奴が来たら危ないじゃないですか」
「だからといって私は抱かれるのは趣味じゃない」
「謙信様が病み付きになるまでヤらせてくださいよっ」
「…下らん…。おい、コイツを追い出してくれ。耳障りだ」
「えっ、ちょっと…」
軽い調子で、自意識過剰もいいとこなくらい自分に自信を持つ奴は気に食わない。
「雪之介、貴様と会うことはもうないだろう。それ程の自信なら女が放っておかないはずだ。決して私にこだわらなくともよかろう。達者でな」
「謙信様ぁっ」
家臣に両腕を掴まれ外に出されていく雪之介に最後に一言告げると、未練がましく私の名を呼び懇願してくる。
「必要ないなんて言わないでくださいよぅ」
「…わかった、そいつを離してやれ」
「はいっ」
あまり悪い印象を与えると街でそれを広められた時に困る。
内部からの反乱が一番困るのだ、特に民衆の反乱が。
「貴様家はないのか?」
「いいえ、ちゃんとありますよ?」
「配偶者は…?」
「婚約者は居たんですけどね、急死してしまって…」
「そうか、悪いことを聞いてしまったな、すまない」
「いえ…。でも心の傷を埋めてくださったのは謙信様だったんですよ」
「ということは…」
「はい、3年前に…」
明るく振る舞うコイツにそんな辛い過去があったとは…。
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