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「殿!宴の準備はできております故、殿の準備が出来次第いらっしゃって下さい」
「うむ…」
戸の向こうで家臣の声がした。
言われずとも宴には参加するつもりだ。
何せ私は主役なのだから。
「あの…早く甲冑を脱がれた方がよろしいのでは…?」
「ならば貴様が脱がせろ。言っておくが甲冑は重いぞ」
「えっ…私が…ですか…?」
「何か不満でもあるのか?」
「いえ、とんでもございません…!」
まだ慣れないのかオドオドとしている。
甲冑の紐を解く手も震えている。
緊張しているのだろう。
私は家臣が同じような発言をした場合、首を撥ねていたところだろう。だが今回は違うのだ。
心惹かれる少年が相手だからこそ許してしまう。
ここで逃がすわけにはいかないのだ。
甲冑を全て外した成利はホッと小さなため息を吐いた。
「着物もだ。汗で張り付いて気持ち悪くての。それに返り血までも付いておって不快窮まりない…」
俺の引き締まった身体を間近で見れば、成利も本当に惹かれることだろう。
「あの…私はしばらくこちらに居座ることになるのでしょうか…」
着物の帯を解きながら成利は言った。
無論、帰すつもりなどない。
家族が心配する、だとかそんなことはどうだっていいのだ。
むしろ天下の織田信長様の愛人になれるとなっては誰も拒否すまい。
「信長様…?」
「帰しはしない、そのつもりでおれ」
「はい、しかしなぜ私を?初対面ですよね」
「お前に心惹かれておる、と言ったらどうする…?」
「え…」
自分とは思えないほど下手な発言になってしまった。
成利は言葉通り目が点になっている。
「私…男なんですが…」
「お前は知らぬのか、今の時代男色は珍しくない」
「そうなんですか…、しかしなぜ私なんかに…?」
「お前は美しい…、その辺の女とは違う美しさをもっておる…」
混乱したような成利の頬を手で包み引き寄せる。
真っすぐな眼差しがしっかりと俺の目を捉えている。
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