【起】

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声がそちらから聞こえたという確信があった訳ではないが、四季はなんとなくそちらに“何か”が居る気配を感じていたのだ。 天井を視線が駆け抜け、次第に襖の上部が視界に映る。その場所を視界に捉えた瞬間、四季は心臓が冷気に晒されるような錯覚に陥れられた。 襖が……開いている……。 そう、四季の目に映った襖の上部は僅かに開き、その向こうの闇を映し出していた。 だが、そんな事があり得る筈がない。 寝る前に襖を閉めた事ははっきりと覚えているし、夜中に女将が開くなんて事も、客商売を営んでいる以上するものか。 ならば何故……? そんな疑問や、恐怖、焦燥と共に、四季の視線がその下へと下っていく。 そしてそこで四季は覚悟を決め、大きく息を吸い込むと、襖の全体像を視界の中央へ捉える為、一気に起き上がってそちらを見据えた。 その瞬間、四季の脳内は雪原のように白く染まってしまう事となる。 視線の先に居たのは……手元に鞠を抱えた、着物姿の少女。 世界はいまだに夜であるにも関わらず、その幼い子供が放つ不思議な雰囲気は、周囲を明るく照らし出しているかのようだった。 いや、ようだったと言うより、実際にそうだったのかもしれない。
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