67人が本棚に入れています
本棚に追加
「あらぁ、どうしましたぁ? そんなに慌てなさってぇ」
「え、あ、その……」
寝起きの身体に染み入る、女将の抜けた言葉。
突然掛けられた言葉に、四季の脳内からは問うべき内容が消え去ってしまう。
故に今の彼女は、言葉にならない声をいくつも漏らし、それを繋ぎ合わせようと躍起になる事しか出来なかった。
普通ならば、そんな彼女に見切りをつけ、話はまた後でお聞きします、などと言われてもおかしくはない。
しかし女将は決してそのような真似はせず、見ていて心地の良い笑みと共に四季を見守っていた。
そんな女将の温かい気持ちも手伝ったのだろう。
やがて四季の脳内で考えが少しだけ、本当に少しだけ纏まり、それと同時にその事を口から吐き出していた。
「あ、あのっ! 子供って居ますかっ!?」
人付き合いの苦手な四季が、やっとの思いで口にした言葉。
大事な部分ばかり抜け落ちたそれは、聞く者からしたら意味の分からない言葉でしかなかった。
事実、女将はその言葉の意味を、勘違いして受け取ってしまう。
「えぇ? 子供ですかぁ? 居ませんよぉ。私、この歳までずっと独り身でしたからぁ」
「そ、そうじゃなくてぇ!」
狭い廊下に、四季の抜けた叫びが響き渡る。
最初のコメントを投稿しよう!