【起】

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「あらぁ、どうしましたぁ? そんなに慌てなさってぇ」 「え、あ、その……」 寝起きの身体に染み入る、女将の抜けた言葉。 突然掛けられた言葉に、四季の脳内からは問うべき内容が消え去ってしまう。 故に今の彼女は、言葉にならない声をいくつも漏らし、それを繋ぎ合わせようと躍起になる事しか出来なかった。 普通ならば、そんな彼女に見切りをつけ、話はまた後でお聞きします、などと言われてもおかしくはない。 しかし女将は決してそのような真似はせず、見ていて心地の良い笑みと共に四季を見守っていた。 そんな女将の温かい気持ちも手伝ったのだろう。 やがて四季の脳内で考えが少しだけ、本当に少しだけ纏まり、それと同時にその事を口から吐き出していた。 「あ、あのっ! 子供って居ますかっ!?」 人付き合いの苦手な四季が、やっとの思いで口にした言葉。 大事な部分ばかり抜け落ちたそれは、聞く者からしたら意味の分からない言葉でしかなかった。 事実、女将はその言葉の意味を、勘違いして受け取ってしまう。 「えぇ? 子供ですかぁ? 居ませんよぉ。私、この歳までずっと独り身でしたからぁ」 「そ、そうじゃなくてぇ!」 狭い廊下に、四季の抜けた叫びが響き渡る。
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