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幸福云々などという付加価値より先に、その者の本質、人ではないという事実が目についてしまう。
言葉を発する事の出来ない四季を見て、女将は彼女のそんな心情を察したのだろう。
落ち着く為には、時間が必要であるという事も。
「では、私はする事がありますのでぇ。これで失礼させて頂きますねぇ」
言うや否や、四季の隣を通り抜け、女将は廊下の奥へと消えていく。
女将の優しさにより、この場に一人取り残された四季。
廊下をたゆたう空気の流れは、焦る四季の思考に女将の優しさを伝えるに至らない。
突如混乱に陥れられた四季は、暫しその場所に佇む事しか出来なかった。
*
「まったく……なんで私なのよ……」
自らの部屋に戻るなり、四季は壁に寄り掛かって座り込み、誰にともなく悪態をつく。
ある程度の思考の末に四季が行き着いた感情は、怒りであった。
女将にでもなく、この場を紹介してくれた同僚にでもなく、他ならぬ座敷童子本人に対する怒り。
なんの根拠も無いが、ここを訪れた全ての人間が座敷童子を目撃するなどという事は、普通に考えてありえないだろう。
四季の怒りの原因は、ズバリここ。
何故自分が、その目撃する側に選ばれたのか、という事だった。
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