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あれは間違いなく、座敷童子だった。
常識なんてものは、時としてここまで脆いものなのである。
「……まぁいっか。もう見る事も無いでしょ」
俯きながら呟く四季のその言葉には、なんの根拠もありはしない。
強いて言うならば、それは半ば祈りにも近かった事だろう。
しかしその願いは次の瞬間、いとも容易く打ち砕かれる事となる。
「お姉ちゃん」
突如室内に響く、あどけない声。
その声が四季の鼓膜を震わせた瞬間、いまだ火を灯していなかった口元の煙草が、何かの支えを失ったかのように床へ吸い寄せられていった。
……今のは?
突然響いたその声に、四季の思考は奪われる。
聞き覚えのある声と、言葉。
だがあり得ない。
いや、あってほしくない。
幽霊や妖怪といったものが現れるのは、大概夜中だと相場が決まっているではないか……!
「お姉ちゃん」
しかし四季の祈りとは裏腹に、例の声は追い討ちを掛けるように再び響き渡る。
四季が震えつつも顔を上げてしまったのは、その声に導かれたからだったのだろうか?
視線の先に佇むは……昨夜と同じく、不思議な雰囲気を放つ少女の姿。
その姿を捉えた瞬間、四季の意識はどこかに遠ざかりかけるが、不思議な事にそれは一瞬で引き戻される。
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