【起】

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まるで目の前の少女が、四季の意識を捕らえて離さないかのように。 人外の存在に対する恐怖から身動きもとれず、気絶する事さえ叶わない。 四季の退路は、今完全にその全てが塞がれていた。 彼女に出来る事など、ただ目の前の座敷童子から目を離さない事のみ。 互いに睨み合ったままの状態で、幾ばくかの時間が流れた時だった。 座敷童子の表情がふいに綻び、実に無邪気な笑顔を浮かべる。 それはさながら、彼女という名の蕾が、美しく花開いたかのようだった。 そして座敷童子は満面の笑みを浮かべたまま、手元の鞠を四季に向かって放り投げる。 いや、投げると言うよりは、転がすとでも言った方がよかったのかもしれない。 彼女の行動の一つ一つはそれ程までに弱々しく、美しかった。 そして四季の意識が向くのは、当然の事ながら……鞠。 てんてんと転がったそれは四季の足に当たり、僅かに跳ね返るとやがて動きを止める。 その瞬間、それは突然訪れた。 四季の視界が鞠を中心に捉えたまま……飛ぶ。 少し陳腐な表現になるが、飛ぶとしか言い様がなかった。 視界が歪み、それはやがて漆黒に飲み込まれる。 今の四季は、その闇の中を漂うような、飛び交うような不思議な感覚に見舞われていた。
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