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「実際に座敷童子が持っていたなんて鞠を出されたら、信じるしかないじゃないですかぁ」
女将はさも当然のように言うが、いくらなんでもその言葉には疑問を感じずにはいられない。
確かに鞠はここに存在しているが、四季にはこれが座敷童子が置いていった物だと、証明する術が無いのだ。
四季は間違いなく座敷童子をこの目で見たのだが、その証明は四季の脳内にしか存在しない。
普通ならば、この鞠は四季が前以て用意した物と考えるのが当然の筈。
しかし……女将は信じてくれた。
客に不快感を与えぬように、信じているふりをしているだけかもしれないが、確かに信じると言ってくれた。
その言葉の真偽すらも証明する術は無いが、四季にとってその言葉は、どれ程の救いとなった事か。
思わず瞳を僅かな感涙で潤ませる四季に対し、女将は尚も言葉を紡ぐ。
「それに、私はこの旅館の……座敷童子が出るという評判の、御幸荘を切り盛りしてる訳ですからぁ。私がその存在を信じなくて、どうするんですかぁ」
言うや否や胸に手を当て、誇らしげに笑う女将。
他人を安心させるその姿は、どこか神々しくさえ感じられた。
実際には鞠ではなく、その理由こそが座敷童子の存在を確信している理由なのだろうが、四季にとってはどちらであろうと関係無い。
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