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そもそも、四季にとって旅先とはそんな奇妙な噂で決めるものではない。
世のしがらみで疲れきった精神を休める事が出来るか否か。
彼女が旅先を選ぶ理由など、そんな些細な理由によるものなのだ。
そしてその旅館は彼女の望む静けさや景色等、一定の条件を満たしている。
だからこそ彼女はその旅館へと向かう事にしたのだ。
座敷童子云々など、全く以て知った事ではない。
そんな事を思い返しているとラジオから流れていた曲も終わり、軽快な口調でMCがトークを始める。
穏やかな気分で目的地へ向かっていると言うのに、こんな陽気な声が聞こえてきては興醒めと言うものだ。
「ふぅ……」
彼女は小さく溜め息を吐き出し、再び左手でラジオを黙らせる。
しかし今一度訪れた静寂に退屈さを感じてしまうのもまた事実。
そんな静寂から逃れたかったのだろう。
彼女は少しでも早く目的地へ辿り着く為、アクセルを踏み込む足に僅かに力を込めるのであった。
*
都心から車を走らせる事数時間、埼玉の山中にひっそりと構えられていたのがここ“御幸荘(ミユキソウ)”であった。
着いた時には既に日も西に大きく傾き、腕時計の短針は六を指している。
涼しげな風が鬱蒼と茂った木々の間を吹き抜ける、自然に囲まれた空間。
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